佐々木正美の軌跡

佐々木正美の軌跡

私の児童精神科医の基礎

私は40数年前の若いころ、児童精神医学の勉強を留学先のブリティッシュ・コロンビア大学で始めた。
そこでは指導教授のカール・クライン先生とアンドリュー・マクターゲット先生から、エリクソンのライフサイクル・モデルを丁寧に学んだ。人間が生涯を健康に幸福に自己実現していくための、見事な道標・道程を学んだ。

近年になって、ますますそのプロセスを自然に経過できないで苦悩する児童や青年に出会う機会が、急速に大変な勢いで増えてきた。乳児期の危機的な発達主題ともいうべきもの、他者を信じて・自分を信じるという基本的信頼の感情を、育てられることがないまま成長・発達してくる子どもや若者が多い。

当然のように思春期・青年期に至るまでも、多様な苦悩を抱えているが、そこに至ってもアイデンティティの確立の手掛かりさえ見つからず、自分探しをしてひきこもりやニートなどの状態で漂流する若者やその家族に、数多く出会い続けている。

他者と自己を信じることができないで、苦悩し漂流し続ける人々とその予備軍としての児童や青年に、私は今、前頭前夜の機能不全に象徴される「コミュニケーション障害」の問題を深く憂慮している。そしてその成因や解決に、自分の小さな余生を用いたいし、それ以上に新進気鋭の、そして働き盛りの研究者や臨床者に大きく未来を託したいと思う。


私の自閉症40年史―TEACCHとのコラボレーション30余年―

自閉症スペクトラムを、親の拒否的・攻撃的養育の結果とする情緒障害説が華やかで、非指示的・絶対受容的心理療法が主流であった時代があり、学習理論に基づいた行動療法の時代を経て、統合教育に希望や活路を見い出そうとした時代があったが、それらいずれにも失望をしていた時、アメリカ・ノースカロライナ大学でエリック・ショプラーらによって研究・開発されていたTEACCHプログラム・モデルに出合った。新たな開眼であり大きな飛躍の原点になった。

従来のように、自閉症を治療的に治そうとするのではなく、自閉症の子どもや人たちが自閉症のままで、健康に幸福に学び生きていくことができるように、現実的には自閉症スペクトラムの人々の機能や能力を大きく発達・発展させるものであった。

その理念や方法の基盤は、視覚的(物理的)構造化というものである。要約すれば、自閉症スペクトラムの人たちが、可能な限りそのままで学習や生活の適応を可能にするように、教室や職場や地域社会の心理的・物理的構造を改造していくことである。そのことがスペクトラムの子どもや人々の可能性を、大きく飛躍・発展させることになる。

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